日本人の“快眠”を支えて100年、不眠症に悩む人を伝統の手仕事で助けたい

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大郷 卓也(おおごう・たくや)/布団職人

profile

昭和48年(1973年)3月13日富山県生まれ。中学生の時、原因不明の難病にかかり、長年にわたる闘病生活を経験。睡眠の質を高めることで病を完治させる。東京布団技術学院で布団の国家資格を取得して、創業から105年続く家業の寝具店「ねむり家(nemuriya)」を継ぎ、眠りに悩む人に寝具の選び方や安眠の方法についての相談を受ける。その傍ら、2007年には医師やカウンセラー、スポーツトレーナーなどと”ぐっすり眠る会”を設立。眠りの勉強会や講演会を主催して、心と身体を芯から癒す眠りの知識を広める活動をしている。知識だけではなく、肩こりや腰痛を寝ながらにして改善させる「寝返り体操」や「肩回し体操」などの実践の体操の指導、睡眠環境や食べ物、ライフスタイルのアドバイスまでして、知っているようで知らない眠りを伝えている。

▼ねむり家(nemuriya)公式サイト
http://www.nemuriya.net/


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寝具店を代々営む家に生まれたので、子どものころから布団の仕立て場で遊んでいました。だから、大人になったら布団屋になるのは自然の流れでした。親からは、一度も「布団屋を継ぎなさい」と言われたことはありませんでした。家族からはよく、「手が器用だね」と褒められたことはあります。

 

 

江戸時代に富山で創業、『白象綿』を富山県内全域に広める

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私が職人として働いているのは、標高3000メートル級の山々に囲まれ、おいしい水が湧き出る富山県富山市の中心部。創業から105年、5代にわたり同じ場所で寝具店を営んでいる「ねむり家(nemuriya)」です。

その「ねむり家(nemuriya)」の前進「大郷綿行(おおごうめんこう)」は明治41年(1908年)、1代目の大郷金次郎によって創業。初代・金次郎の実家は、江戸時代、材木屋や質屋を営んでいた商家でした。分家した初代が新たに興した大郷綿行が、現在まで100年続く「ねむり家(nemuriya)」の始まりとなりました。

大郷綿行では、寝具の手作業による製造や加工、卸を一貫して手掛け、それは現在のねむり家にも受け継がれています。

浮き沈みの激しい時代、2代目の為之輔は堅調に商売を大きくして、3代目である修平が、寝具用の綿のブランド、『白象綿』を富山県内全域に広めました。

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戦火で店舗や工場が消失、再建のため各地を奔走

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ところが、戦争が激化した昭和20年(1945年)8月2日の富山大空襲によって、富山市中心部の実に98パーセントが消失、店舗や工場は見る影もない状態になります。そんな失意の中でも、家族には大きな喜びと希望がありました。私の父であり4代目となる宏が、昭和20年(1945年)8月23日に疎開先で誕生したのです。

一家は、2つあった土蔵のうち、焼け残った1つを住まいにして、得意先からの要望に応えるべく、工場の再建に奔走します。物資が不足するなか、木材や原料がなかなか集まらず、近県の能登や岐阜まで足を運び、船で材料を運んできたそうです。

戦後の区画整理がすすめられ、店はバスが行き交うメインストリートだったかつての通りから外されることになりました。これによって、人通りも大きく変わってしまいましたが、3代目は今の場所を離れずに商売を続けました。

 

 

5人に1人が不眠症、快適な眠りを実現する商品作りに力

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昭和45年(1970年)には、4代目となる父の宏が布団の職人の修行を終え、実家へと戻ります。そこから、高度経済成長期、まだ大型スーパーや量販店がない時代、多くの物が流通した時代です。

昭和50年代まで順調だった寝具の販売も、昭和から平成に変わり、大型スーパーの出店が相次いだことや日本の繊維産業をとりまく環境の変化で、業界の流れや流通も大きく変わっていきました。

業界と流通の激変にともない、商売がやりづらくなってきたなか、5代目として私が平成9年(1997年)に家業を継ぎました。

私は東京で2年間、東京布団技術学院で布団の製作の技術を学び、会社の原点である天然素材を使った手作りの布団製作に力を入れました。また、5人に1人は不眠症といわれる今の時代、お客の声を聞いていくと、眠れない方が多いことを強く感じ、医師やカウンセラー、スポーツトレーナーらと”ぐっすり眠る会”を設立。睡眠と健康の関係について講演会を開催したり、商品づくりに生かしたりしています。

 

 

80歳になっても現役で!皆さんのご支援を励みにしたい

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オーダーをいただき、出来上がった製品をお届けしに配達すると、お客さんから昔のお店の話や祖父や父の話を聞くことがあります。

「気持ちよく眠れるようになったよ、ありがとう」

お客さんからこんな言葉をかけてくれる度に涙が出るほど嬉しく、「布団屋をやっていて良かった」と心の中から思うのです。同業者が少なく、なくなりつつある手仕事での布団製作ですが、お客さんからの声を励みに、「続けていくんだ!」と心に誓っています。

布団の職人として私を育てていただいた布団学校の校長のように、80歳になっても現役で手仕事での布団づくりをしている職人を目指しています。
また、商品はもちろん、その使い方や眠り方、眠りの大切さを多くの方に広めて行きたいと思っています。

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